糖化度のお話し(9)

研究員

研究員:前回は「血糖値スパイク」のご説明を頂きましたね。血糖値スパイクと糖化度との関係を教えていただき、また、血糖値スパイクが生じないようにする食生活を教えていただきたいです。

所長

ブドウ糖(グルコース)には棘はありませんよ。
食事前の空腹時の血糖値は正常であるものの、食後に血糖値が急上昇し、その後急降下することで、そのグラフの形状から「血糖値スパイク:「血糖値スパイク」の続きですね。
血糖値が急激に上がったり下がったりすると、血管細胞から多くの「活性酸素」が発生し、血管の内壁を傷つけることが知られています。血糖値が急上昇するとインシュリンが分泌され、ブドウ糖は急激に筋肉や肝臓や脂肪細胞に吸収され血糖値は急降下するのですが、下がりすぎると血糖値を上げるホルモンが分泌され食前値を維持しようとしますが、インスリンの出が少なくなると高血糖の状態が続きそれだけ糖化反応が亢進し、血管細胞の中から「活性酸素」が多く出て、血管壁にダメージを与えてしまうのです。

その傷ついた血管を修復しようとする免疫細胞の白血球が細胞間に集まり、その結果、血管内壁が盛り上がり厚くなり、血流を阻害し、動脈硬化が進行してゆくようです。

すこし難しいけれど、血糖値スパイクと活性酸素発生との関係を少し説明しますね。

<酸化反応の説明>
基本的に、細胞はグルコース(ブドウ糖)をエネルギー源として利用する。血糖値が急上昇すると、細胞に急激に大量のグルコースが供給され、これが細胞内で急速に吸収代謝される。
その結果、細胞内でのミトコンドリアによるエネルギーATP 生産が急激に増加し、酸化ストレスが発生する。 一方、血糖値が急降下すると、細胞に十分なグルコースが供給されなくなり、エネルギーATP 生産が低下する。この場合、細胞は脂肪酸やアミノ酸などの代替エネルギー源を利用するようになるが、これも酸化ストレスを引き起こす可能性がある。
次に、酸化ストレスが生じると「活性酸素」が生じる例として、ミトコンドリア内でのグルコース代謝を説明する。 細胞内のミトコンドリアの呼吸鎖複合体が電子伝達を行い、ATP(エネルギー) を生成する過程で、酸素分子が電子を受け取り、酸化されて水になる。しかし、電子伝達の過程で電子が漏れることがあり、これがフリーラジカルを生成する。
ただし、この過程では特に「活性酸素」の一種であるスーパーオキシドアニオン (O2-)を生成することが観測されている。
このように、血糖値の急激な変動は細胞のエネルギー供給方法を変え、細胞内での代謝プロセスに影響を与えるため、「活性酸素」が大量に発生する。

所長

つぎに糖化のお話しです、
血糖値スパイクによって知らないうちに糖化が進んでいくんです。 糖化反応は説明してきましたので、再度、確認してくださいね。
なお、前回の説明への追加になるのだけれど、健康診断では空腹時血糖値を測定し、また、ヘモグロビン A1c(HbA1c)も過去 1~2 カ月の平均的血糖値が判る指標なので、食後直ぐの血糖上昇は計測できていないのです。 このため、血糖値スパイクが生じても通常の健康診断では見ることができず、問題ないと判定され、身体内での糖化が進むということが生じてしまうのです。

研究員

健康診断では判らないけれど、医療機関に依頼すれば血糖値スパイクを計測していただけるとのことでしたが、糖尿病専門の医療機関では簡単に計測できるのですか?

所長

75g ブドウ糖負荷試験(OGTT)で検査できます。ブドウ糖 75g 入りジュースを飲み、摂取前および摂取後の 30 分、60 分、120 分にそれぞれ採血し、血糖と同時にインスリンレベルも測定し、耐糖能を評価することができます。

ヘモグロビン A1c(HbA1c): ヘモグロビンにグルコースが非酵素的に結合した糖化蛋白質である糖化ヘモグロビンの 1 つ。
過去 1~2 カ月の血糖コントロール状態の評価を行う上での重要な指標。 赤血球中のヘモグロビン分子が血糖グルコースと結合して検査項目でHbA1c と表記されますが、ヘモグロビン分子全体の何%が糖化しているか表されます。
食事から採血までの時間の影響を受けやすい血糖値と比較して、そうした影響を受けにくく、過去 1~2 カ月の平均的血糖値を反映するので、糖尿病の早期発見や血糖コントロール状態の評価に有用な検査指標です。
出典:e-ヘルスネット(厚生労働省)

◆補足
OGTT の評価について 正常: 0、30、60、90、120 分の血糖値がそれぞれ以下の値であれば、正常と判断される。
0 分: 95 mg/dL 以下
30 分: 180 mg/dL 以下
60 分: 155mg/dL 以下
90 分: 140 mg/dL 以下
120 分: 120 mg/dL 以下
早期糖尿病: 1 つ以上の値が正常値を超える場合、早期糖尿病と判断される。
糖尿病: 2 つ以上の値が正常値を超える場合、糖尿病と判断される。

所長

この検査を行えば、血糖値スパイクが生じているかが判るのだけれども、あまり知られていないよね。
要するに、血糖値スパイクにより血中のブドウ糖濃度が上昇してしまっている方は、健康診断では血糖値の異常が見つからずに、いつの間にか終末糖化産物(AGE) が体内で生成されてゆくケースが多いんだ。

研究員

研究員:この検査は2時間以上かかる大変そうな検査なんですね。
健康診断で何も判明しなかったら、あえて 75g ブドウ糖負荷試験(OGTT)を受けるインセンティブはあまりおきないですね。

所長

そうだね、費用はそれなりにかかりますし。
だから、血糖値を高くしない食事のとり方が大事ということで、日常的に血糖値スパイクを食事でコントロールして行くことが大切。特に中高齢者になるほど気を付けるべきところかもしれませんね。

研究員

では、食生活はどの様にしたら血糖値スパイクのリスクを軽減できるのでしょう?

所長

何点かあるのですが、3 点説明しましょう。
1番目は、食事で摂取する順番を考えることです。
最初に食べるものは、「野菜、お魚やお肉など」、次に糖質の多い「お米、パン、パ スタ、コーンスープ」などを摂るなど、糖質が
一気に摂取しないことで、血糖値ス パイクの発現が抑えられると考えらえますね。 研究機関や食品メーカーがウエッブサイトで「食事の順番」を掲載しているので、 参考にしてみてください。 特に多いのが、はじめは野菜、次にタンパク質、そして糖質が推奨されていますね。

所長

追記として、タンパク質を摂取するとインクレチン(GLP-1)が体内で分泌され、 胃の活 動が穏やかになり、その後に糖質を摂取すると腸に血糖が届くスピードが 遅くなるので、 食後の急激な血糖値上昇が抑えられるのですよ。

研究員

和食や洋食・中華のコース料理などは、前菜や先付から始まりますが、糖質が多い ものの順番は後になりますよね。
コース料理の順番は人の食欲を増加させるため に、軽め で酸味や塩味の効いた料理が先に出されることなのでしょうが、それは血糖の抑制にも繋 がっていると思うと、理にかなっているのですね。
毎日の食事で気を付ける事項について、 その続きを、次回、教えてください。

岡部 敬一郎: 食糧学院長寿健康ベターエイジング研究所 所長・理学博士、 (元)東京栄養食糧専門学校校長 
中静 隆: 栄養士科81回生、健康長寿ベターエイジング研究所 客員研究員