トランプ関税だけでは語れない 激動の世界が動かす“日本の食の未来”
本講演では、「トランプ関税だけでは語れない—激動の世界が動かす日本の食の未来」をテーマに、住友商事グローバルリサーチの本間隆行氏より、食と安全保障を取り巻く国際環境の変化について解説いただいた。
講師より、昨今の動向を鑑みるに、大きな変化が生じてきて、その影響が出始めてきたと考えるのが良く、講師の見解として、その変化の兆候は2017年のBrexit(英国のEU離脱)が端緒と思われる。
そして、トランプ関税という代表政策により分断が進んだと指摘されており、また、世界で紛争も生じている。
この流れを念頭に置くことで、これからの皆様の活動において生じる様々な課題について、適切な対処が可能になることを願う、との趣旨で講演を始められた。
全体テーマ(2020〜2026年の世界情勢)
2020年から2026年にかけて、世界はコロナパンデミック、米中対立、ウクライナ侵攻、イスラエルやイランをめぐる紛争など、連続する地政学的ショックに直面した。
これに伴い、経済制裁や金融引き締め、脱炭素政策、米国の関税措置など政策環境も大きく変化している。
2026年の世界経済は成長率3%前後と見込まれ、AIバブルや需給バランスの変化が物価に影響を与える。さらに、気候変動、サプライチェーンの再編、半導体不足、重要鉱物、日本での防衛費増加に加え、AIデータセンター増設による水問題、およびサイバー空間・宇宙領域の課題が新たな要因として浮上している。
2025年の国際関係(地域別主要イベント)
2025年の国際情勢では、西半球でトランプ大統領就任に伴う政策転換や相互関税が注目された。
欧州・中東・アフリカでは、イスラエル・米国によるイラン空爆、米国依存度の低下によるNATO防衛費の引き上げ、ガザ停戦などが起き、が見られた。
アジアでは核保有国であるインドとパキスタンの衝突懸念、日本での高市内閣発足などが重要な動きとなった。
2026年 世界10大リスク(ユーラシア・グループ)
- 米国政治:制度弱体化と“武器化”。
- 中国による「電気スタック」化:EV・電池・送電網などの優位性を強める。
- ドンロー主義:米国の強圧的外交。
- 欧州の弱体化:中道衰退、統治能力低下。
- ロシアの第二戦線:NATOとのグレーゾーン衝突リスク。
- 米国式国家資本主義:政府介入強化。
- 中国デフレ:不動産不況・需要低迷。
- AIリスク:社会不安定化。
- USMCAのゾンビ化:北米貿易の不確実性。
- 水の武器化:ナイル川・インダス川→「水資源が国家間対立の“兵器”になる」
中東情勢(2026年見通し)
この資料は2月末のイラン空爆以前に作成されたもので、関係国の構図自体は大きく変わらないものの、イスラエルと米国によるイラン空爆を受け、今後の情勢は不透明さを増している。
本来「低烈度紛争の常態化」とされていた地域では、むしろ紛争が深刻化している点が重要である。
世界経済(IMF見通し)
AI関連投資が世界経済を押し上げる一方、物価は2025年の4.1%から2026年には3.8%へと低下する見通しである。
米国経済は堅調だが、日本の成長率は0.7%と世界平均を下回る。景況感は緩やかに改善しているものの、イラン情勢の影響でエネルギー価格は再び高騰傾向にある。
関税・経済・戦争の歴史的関係
米国の関税率と成長率の長期推移を見ると、戦争や疫病などの危機、および関税政策が経済に大きな影響を与えてきた歴史が浮かび上がる。
第一次世界大戦前夜の疫病蔓延や高関税政策など、現在と重なる点も多い。
2025年の相互関税や2026年の米・イスラエルによるイラン攻撃を踏まえ、今後の米国および世界情勢を注視する必要がある。
米国の関税と貿易収支
米国は鉄鋼、自動車、半導体など主要品目に追加関税を課しているが、昨年度のトランプ関税の一部が最高裁で違憲と判断され、新たに122条課徴金の対象外品目が生じた。
貿易赤字は依然として続き、関税収入は増加している。過去は輸入物価は低下傾向にあったが、2026年の動向を見る必要がある。
現時点では、関税による米国製造業の大きな復活は認められず、むしろ米国民が割高な輸入品を購入する状況が続いている。
安全保障と経済安全保障
安全保障の対象は領土・災害・国境・シーレーンに加え、宇宙やサイバー空間へと拡大している。
経済安全保障ではエネルギー、鉱物、食料、技術、移民が重要テーマであり、日本でも移民が政治争点となりつつある。
生産要素のうち人的資源は減少しており、高齢者も含めた労働力確保が課題となる。
食料・鉱物・領土を組み合わせ、日本の自律性を高める政策・戦略が求められる。
食料需給(穀類・肉類・肥料)
日本の穀物は国内生産29%、輸入71%と高い輸入依存度にあり、特に小麦とトウモロコシはほぼ輸入に頼っている。
肉類は国内54%、輸入46%で、肥料原料はほぼ全量を輸入に依存している。化学肥料には天然ガスが必要であり、イラン情勢次第では中東以外からの調達も検討する必要がある。
品目別の輸入元(穀類・肉類・肥料)
穀類は米国・カナダ・豪州が主要供給国であり、肉類は米国・カナダ・スペインなどが中心となる。
肥料は中国・マレーシア・モロッコ・ヨルダンなど特定地域への依存
食料品貿易・インバウンド
訪日外国人は4268万人に達し、その経済効果は人口80万人増に相当する。
人口減少が続く日本にとって、インバウンドは重要な補完要素となっている。
食料品輸出は緑茶を中心に増加傾向だが、紛争発生時には輸出が困難になるため、販売先の多角化が求められる。
農産物≠食料(エタノール・バイオ燃料)
米国ではトウモロコシが燃料用エタノールとして大量に使用され、ブラジルではサトウキビ由来のエタノール生産が進む。
トランプ政権はエタノール関税を外交カードとして活用しており、関税問題の影響で、本来中国向けであった大豆が米国内でバイオ燃料として利用されるケースも生じている。
食料の確認ポイント(サプライチェーン全体)
食料品ごとに輸入依存度、生産費、エネルギー、流通コストを総合的に評価する必要がある。
「ないものは使えない」という前提のもと、代替手段の確保が重要であり、質と量の両立が難しい場合の判断が課題となる。
なお、米の生産についての質疑があったが、現状では不採算の農業形態を直すためには政府が小規模農家を如何に扱うかが課題であるが、土地の売却は不動産価格の高騰を受け容易ではない可能性があるとの見解が示された。
なお、大規模農家においては、その生産は外国への輸出などを行うことで、安定した収益を上げる努力をしている方もいる、とのこと。
注:本資料は、2026年3月に実施した講演内容を学友会が要約したものであり、学友会として特定の政策・政党・国家を支持するものではありません。
