食糧祭講演会 「トランプ関税と「日本の食」への影響」(11月3日実施)の講演要旨・資料を掲載しました

食料祭(11月3日)に開催された講演会の要約・資料を掲載させて頂きます。
講演会は、「トランプ関税と「日本の食」への影響」のタイトルにて、講師の本間 隆行氏(住友商事グローバルリサーチ株式会社 チーフエコノミスト)をお招きして開催いたしました。

今回は30分の概略講演でしたが、来年の本講演では、最新の情報を基に内容を掘り下げた内容となる予定です。

来年の本講演につきましては、別途、ホームページ・LINEなどでご案内させて頂きます。


トランプ関税と「日本の食」への影響(講演要約)

1. トランプ関税の影響とその特徴

トランプ政権下で実施された関税政策(いわゆる「トランプ関税」)は、米国の輸入コストを押し上げ、消費者物価の高騰を招きました。一方で、米国内産業の保護や設備投資の増加を促進する側面も見られましたが、報復関税などの貿易制約によって生産や利益が減少するケースも発生しています。関税政策は交渉の進展次第で状況が大きく変わるため、今後の動向には不確実性がつきまといます。

2. 米国経済の現状と課題

米国は物資調達や労働力の確保に苦戦しており、輸出依存型経済からの転換が課題です。インフレ抑制や各国との交渉の難しさ、市場展開力の不透明さもあり、常に予測できないリスクが存在します。「MAGA」を掲げて経済成長を目指すものの、成長鈍化やデフレリスクも否定できません。

3. 関税政策の歴史と負担の構造

米国の関税率はこの100年で大きく変動しており、2025年は1933年以来の高水準となる見込みです。関税収入や米中貿易収支、米国企業の中国投資の構造も変化しています。関税負担は基本的に米国民が担いますが、輸出国が値引きすることで負担が移転する場合もあります。

4. 世界の政治・社会の不安定化

米国だけでなく、欧州、メキシコ、インド、イランなど多くの国で政権交代や政治的混乱が続いています。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・ガザの問題など、地政学的リスクも顕在化し、世界で保守化・右傾化が進行中です。こうした状況下、保護主義的な関税政策は第二次世界大戦前の状況にも似ているとの指摘があります。

5. 日本の経済・食料安全保障

日本では国土強靭化、サプライチェーン強化、宇宙・サイバー空間の安全保障など新しい課題が浮かび上がっています。エネルギーや鉱物資源、食料の多くを輸入に頼る現状で、特に穀物・肉類、肥料原料は中国依存度が高いのが特徴です。持続可能な国内生産基盤の強化が急務です。

6. 日本の食料品輸出とインバウンド需要

円安を背景に食料品輸出が増加し、訪日外国人旅行者による消費も活発です。ただし、人口減少が進むなかでインバウンド需要への依存度が高く、経済成長率も低水準(0.5〜1.0%)にとどまっています。この構造的脆弱性への対策が求められています。

7. 農産物とエネルギー政策の連動

米国ではトウモロコシ由来エタノールなどバイオ燃料政策が農業・貿易政策と密接に関連。持続可能な航空燃料(SAF)の普及や気候変動対応も重要課題です。なお、米中通商摩擦では中国が米国産大豆輸入を停止し南米へシフトする動きも見られます。

8. まとめと今後の展望

保護主義の高まりやサプライチェーンの再編により、調達や価格の適正化が問われています。「食の安全保障」を重視する動きが強まり、特に日本では食料需給構造の脆弱性が顕在化しています。

今後、日本の政策や個人の意識も、馴染みのあるサプライチェーンや食の安全保障について変革が求められる可能性があります。